2024年05月24日

控えの収受日付印を廃止

控えの収受日付印を廃止


皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。



今年初めになかなか衝撃的なニュースがありました。

「令和7年1月から申告書等の控えに収受日付印を押さない」という国税庁の発表です。

これまで税務署は書面で提出された申告書等(申告書、申請書、届出書などのすべての文書)について、受け取った証しとして控えの文書に収受日付印を押していました。

令和7年1月からはその印は押されません。



◆収受日付印の役割



 納税者にとって、申告書等の収受日付印には大きな役割がありました。

 まずは、申告書等を税務署に提出したことの証しです。申請書や届出書などは「あれ、出してあったかな?」となることがたまにあります。そんなとき、収受日付印のある文書が保存してあれば、出したことは容易に確認できます。

 これは税務署に対しても有効です。ベテラン税理士が言うには、「文書を出した」「いや、もらっていない」という納税者⇔税務署間のトラブルがたまに起こるそうです。そこでも収受日付印のある文書があれば、出したことは一目瞭然です。



 次に、収受日付印のある申告書等の提出を求められる機会があることです。自営業者の場合、現状では、金融機関で融資を受けるとき、行政機関に助成金や補助金の申請をするとき、保育園の入園手続きをするときなどに、収受日付印の押してある確定申告書の提出が求められます。収受日付印が「ある」と「ない」では、文書としての役割に大きな違いがあるのです。



◆令和5年から水面下で



 ところで、いつの間にこんな話が進んでいたのでしょうか。これは伝聞情報ですが、令和5年春ごろ、国税局(税務署)から各税理士会に「令和6年1月から書面で出された申告書等に収受日付印を押さない」という方針が示されたそうです。

納税者の申告実務を担っている税理士会は「賛成できない」という立場を取ったため、当局との間で相当もめたようです。しかし、結果として「実施を一年遅らせ、その間に納税者に周知を行う」ということで、押し切られてしまったとのことでした。

 どうやら、この話は国税庁のさらに上、政府(デジタル庁)に端を発しているようです。



◆書面提出は200万人超(令和4年)



 e-Taxが普及したとはいえ、まだそれなりに書面での申告がされています。

 国税庁によれば、「令和4年度のe-Tax利用率は、所得税申告で65.7%」であり、同年の「申告納税者数は653万人」ということなので、約224万人(653万人×34.3%)が所得税申告を書面で行っています。

 令和6年分の確定申告(押印廃止後)では、書面提出はさらに減ると思われますが、それでも100万人を下回らないのではないでしょうか。



◆「国税庁Q&A」の説明では



 国税庁「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」(令和6年2月1日)には、「納税者等が申告書等を提出した事実を確認したい場合はどのようにすればよいか」「金融機関や行政機関等から収受日付印の押なつされた控えを求められる場合がある」などの問いについての回答が書かれています。

 前者への回答にはいくつかの方法が書かれていますが、どれも納税者には手間や費用がかかるものです。

 後者への回答には、「収受日付印の押なつされた申告書等の控えを求めないよう、事前説明やお願いをした」と書かれています。金融機関や行政機関側がどうするかはこれからの話ですが、前者の回答にあるような方法が代替措置になる可能性があります。



◆誰にとっての利便性?



 この「Q&A」で一番突っ込みたくなるのは、「今般の見直しの趣旨を教えてほしい」という問いへの回答中の「納税者の利便性の向上等の観点から…」という文言です。前節で述べたように、書面で申告書等を提出する納税者は不便になるとしか考えられないからです。高齢などを理由に書面で提出せざるを得ない人への配慮が欠けているように感じます。

 ちなみに、税務署が受け取った申告書等の正本には、これまでどおりに収受日付印が押されます。それは、いつ受け取ったかの証しが必要だからです。同じ理由が出した側にもあるのですが、そちらには押さないというのは、なかなか理解ができません。

「むりやりにでも電子申告を普及させるために、わざわざ書面提出の方を不便にしたのではないか」と思われても仕方ないのではないかと思います。



参考:国税庁「申告書等の控えへの収受日付印の押なつの見直しに関するQ&A」

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Posted by 北野純一税理士事務所 at 12:44Comments(0)税務

2024年05月10日

ダブルワーク、青色事業専従者も可能?

皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。

今回は、青色専従者のダブルワークについてお伝えしていきたいと思います。


ダブルワーク、青色事業専従者も可能?



AとBは夫婦です。個人事業を営んでいるA(個人事業主)の青色専従者として給与をもらいながら、Bが外に働きに行くことはできるのでしょうか。もしくは、もともと外でパートをしながらAの事業を手伝っていたBは、税務署に届け出をすれば専従者給与をもらうことができるのでしょうか。

夫婦合わせての収入を増やしつつ節税のことも考えれば、上記のように考えるのは十分あり得る話です。実態として二か所で仕事をしていれば、それぞれから仕事に見合った給与を受け取るのは、社会的には当たり前のことです。



◆青色事業専従者給与は特例措置



しかし、ここで問題になるのが所得税法に残されている家族単位課税の考え方です(参照:コラム『事業主が同一生計の親族に支払う対価について(所得税法第56条)』2023年11月14日)。

事業主が同一生計の親族に支払う対価については原則経費として認めず、青色事業専従者給与等については特例で必要経費として認めるというものです。

特例なのでいろいろと制限がついており、青色事業専従者のダブルワークはそれに引っかかってしまうのです。



◆ダブルワークは条件付きで可能



今回のテーマの結論を先に述べましょう。

青色事業専従者として給与をもらいながら、パートやアルバイトなどで他から給与をもらうことは条件付きで可能です。

青色専従者給与は「事業に専従する」親族に対する給与です。

「事業に専従する」の判定に直接関係するのは、所得税法施行令165条1項と2項です。少し長いですが、抜粋します。



(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)

第百六十五条 法第五十七条第一項又は第三項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。ただし、同条第一項の場合にあつては、次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその二分の一に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする



一 当該事業が年の中途における開業 、廃業、休業又はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかつたこと。

二 当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかつたこと。



2 前項の場合において、同項に規定する親族につき次の各号の一に該当する者である期間があるときは、当該期間は、同項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする



一 学校教育法第一条(学校の範囲)、第百二十四条(専修学校)又は第百三十四条第一項(各種学校)の学校の学生又は生徒である者(夜間において授業を受ける者で昼間を主とする当該事業に従事するもの、昼間において授業を受ける者で夜間を主とする当該事業に従事するもの、同法第百二十四条又は同項の学校の生徒で常時修学しないものその他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)

二 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。

三 老衰その他心身の障害により事業に従事する能力が著しく阻害されている者



上記の条文をごく簡単にまとめれば、以下の通りです。



①1年であれば6か月以上「専ら従事する」(または、従事可能期間の半分以上を「専ら従事する」)ならOK。

②学生や生徒だったり、他に仕事をしていたりすれば「専ら従事する」とはいえない。ただし、昼は学校に行って夜は事業に従事する、他の仕事の時間が短いなどの理由で「専ら従事することが妨げられないと認められる者」は、例外的にOK。



◆簡単には考えるのはNG



A、Bの夫婦の場合、実際にBがAの事業に専ら従事しており、他の仕事がその妨げになっていないなら、青色事業専従者のダブルワークは可能であるといえます。

しかし、簡単に考えてはいけません。

他に仕事を持つ妻に支払った青色専従者給与の可否について争われた裁判では、上記まとめ②の「専ら従事することが妨げられないと認められる者」という例外に当たるかどうかが問題になりました。

そして、この例外に該当するかどうかは他の職業に従事する期間が短く、その事業に専ら従事することが妨げられないことが一見して明らかであるかどうか、実質的にその事業に専ら従事することが妨げられないと認められるかどうかによって判断するのが相当という考えが示されました。

この裁判では、妻の本業の就業時間を裏付ける資料はなく、供述だけでした。

また、本業の給与よりも他の業務の報酬の方が高額でした。

裁判所は、本業とそれ以外の仕事について、業務の性質、内容、従事の態様その他の事情を検討し、「専ら従事することが妨げられないと認められる者には該当しない」としたため、妻への青色専従者給与は認められませんでした。



◆「本業を妨げてはいない」という客観的証拠



以上のようなことを考慮すれば、青色事業専従者がダブルワークをする場合、他の仕事が「本業に専ら従事することを妨げてはいない」という客観的証拠を残しておくべきでしょう。

具体的にはタイムカードや業務日報などで業務時間や業務内容を明確にしておくことです。

さらには、本業と他の仕事の業務時間や報酬のバランスなども不自然にならないように気を付ける必要があります。


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Posted by 北野純一税理士事務所 at 12:20Comments(0)その他

2024年05月07日

パワハラ防止措置 義務化されて2年

皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。

つい最近話題になったTVドラマ「不適切にもほどがある!」にも登場していたハラスメント問題。
パワハラ防止措置が義務化されて2年が経ちました。いまいちど、内容について見直していきましょう。

パワハラ防止措置 義務化されて2年



◆ハラスメント防止と法律


「ハラスメントは良くないよね」という意識は、今の日本社会におおむね根付いているように思います。
振り返ってみれば、従業員を雇用する企業にハラスメント防止措置を義務づける法律は以下のように拡充されてきました。


・1999年4月 男女雇用均等法で女性労働者に対するセクハラ防止のための配慮義務
・2007年4月 「男女労働者に対するセクハラ防止の措置義務」に改正される
・2017年1月 「マタニティハラスメント(マタハラ)防止の措置義務」が追加される
・2020年6月 労働施策総合推進法で大企業にパワハラ防止のための措置義務
・2022年4月 中小企業にパワハラ防止のための措置義務


◆ドラマ「不適切にもほどがある!」にも


つい最近話題になったTVドラマ「不適切にもほどがある!」には、ハラスメント問題も登場していました。
このドラマの起点である1980年代には、そもそも「パワハラ」という概念はありませんでした。
そんな時代から現代にタイムスリップした主人公たちの引き起こすドタバタ社会派コメディーに多くの人が引き付けられました。
「ハラスメント=良くないこと」という大まかな合意がベースにありつつも、ハラスメントをめぐる問題を具体的にどうとらえるべきか、人々の意識レベルではまだすっきりとはしていないことを、このドラマは描き出したように思います。

さて、前述のように、個人・法人を問わず従業員を雇用するすべての企業に、具体的なパワハラ防止措置が義務付けられて、この4月で2年が経過しました。
あらためて、職場のハラスメント防止措置が掛け声だけでなく実効性のあるものになっているかどうか、点検する必要があります。

◆ハラスメントは人権侵害


2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、「過去3年間でパワーハラスメントを受けたことがある」と回答した人は、実に全体の31.4%に上りました。
これは、「ハラスメントが起きない企業はない」と考えるべき数字であるような気がします。

ハラスメントは人権侵害であり、本来許されることではありません。
被害者は、精神的、肉体的に理不尽な苦痛を被ることで、心身に不調をきたすことさえあります。
さらには、ハラスメントを見聞きした周囲の人々にも悪影響を与えます。
労働意欲やモラルが低下するなど、職場環境を悪化させます。
パーソル総合研究所の「職場のハラスメントについての定量調査」(2022年)によれば、2021年には全国で86.5万人がハラスメントを理由として離職しています。人手不足のおり、「ハラスメントが原因で離職」というのは、企業にとっても大きな損失です。

◆ハラスメント防止措置


事業主に義務付けられているハラスメント防止措置は、以下のとおりです。


① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
④ 併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)
※妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、その原因や背景となる要因を
 解消するための措置も含まれる


事業主は、これらの措置を必ず講じなければなりません。※リンク先を参照して、その詳細をご確認ください。

これらの措置は、決めて周知してそれで終わりというものではありません。
「ハラスメント防止宣言」を出しても、実際にハラスメントが見過ごされていれば、その宣言は効力を発揮していません。
相談窓口を作っても、その人選に問題があったり必要な教育が行われていなかったりすれば、窓口としてふさわしい役割を担うことはできません。
これらの防止措置に実効性を持たせるには、点検・啓発・教育などを継続しておこなう必要があります。


【リンク】

厚生労働省 パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕」p.19-30


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Posted by 北野純一税理士事務所 at 11:12Comments(0)経営