2024年05月10日

ダブルワーク、青色事業専従者も可能?

皆様こんにちは。北野税理士事務所の北野です。

今回は、青色専従者のダブルワークについてお伝えしていきたいと思います。


ダブルワーク、青色事業専従者も可能?



AとBは夫婦です。個人事業を営んでいるA(個人事業主)の青色専従者として給与をもらいながら、Bが外に働きに行くことはできるのでしょうか。もしくは、もともと外でパートをしながらAの事業を手伝っていたBは、税務署に届け出をすれば専従者給与をもらうことができるのでしょうか。

夫婦合わせての収入を増やしつつ節税のことも考えれば、上記のように考えるのは十分あり得る話です。実態として二か所で仕事をしていれば、それぞれから仕事に見合った給与を受け取るのは、社会的には当たり前のことです。



◆青色事業専従者給与は特例措置



しかし、ここで問題になるのが所得税法に残されている家族単位課税の考え方です(参照:コラム『事業主が同一生計の親族に支払う対価について(所得税法第56条)』2023年11月14日)。

事業主が同一生計の親族に支払う対価については原則経費として認めず、青色事業専従者給与等については特例で必要経費として認めるというものです。

特例なのでいろいろと制限がついており、青色事業専従者のダブルワークはそれに引っかかってしまうのです。



◆ダブルワークは条件付きで可能



今回のテーマの結論を先に述べましょう。

青色事業専従者として給与をもらいながら、パートやアルバイトなどで他から給与をもらうことは条件付きで可能です。

青色専従者給与は「事業に専従する」親族に対する給与です。

「事業に専従する」の判定に直接関係するのは、所得税法施行令165条1項と2項です。少し長いですが、抜粋します。



(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)

第百六十五条 法第五十七条第一項又は第三項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。ただし、同条第一項の場合にあつては、次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその二分の一に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする



一 当該事業が年の中途における開業 、廃業、休業又はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかつたこと。

二 当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかつたこと。



2 前項の場合において、同項に規定する親族につき次の各号の一に該当する者である期間があるときは、当該期間は、同項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする



一 学校教育法第一条(学校の範囲)、第百二十四条(専修学校)又は第百三十四条第一項(各種学校)の学校の学生又は生徒である者(夜間において授業を受ける者で昼間を主とする当該事業に従事するもの、昼間において授業を受ける者で夜間を主とする当該事業に従事するもの、同法第百二十四条又は同項の学校の生徒で常時修学しないものその他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)

二 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。

三 老衰その他心身の障害により事業に従事する能力が著しく阻害されている者



上記の条文をごく簡単にまとめれば、以下の通りです。



①1年であれば6か月以上「専ら従事する」(または、従事可能期間の半分以上を「専ら従事する」)ならOK。

②学生や生徒だったり、他に仕事をしていたりすれば「専ら従事する」とはいえない。ただし、昼は学校に行って夜は事業に従事する、他の仕事の時間が短いなどの理由で「専ら従事することが妨げられないと認められる者」は、例外的にOK。



◆簡単には考えるのはNG



A、Bの夫婦の場合、実際にBがAの事業に専ら従事しており、他の仕事がその妨げになっていないなら、青色事業専従者のダブルワークは可能であるといえます。

しかし、簡単に考えてはいけません。

他に仕事を持つ妻に支払った青色専従者給与の可否について争われた裁判では、上記まとめ②の「専ら従事することが妨げられないと認められる者」という例外に当たるかどうかが問題になりました。

そして、この例外に該当するかどうかは他の職業に従事する期間が短く、その事業に専ら従事することが妨げられないことが一見して明らかであるかどうか、実質的にその事業に専ら従事することが妨げられないと認められるかどうかによって判断するのが相当という考えが示されました。

この裁判では、妻の本業の就業時間を裏付ける資料はなく、供述だけでした。

また、本業の給与よりも他の業務の報酬の方が高額でした。

裁判所は、本業とそれ以外の仕事について、業務の性質、内容、従事の態様その他の事情を検討し、「専ら従事することが妨げられないと認められる者には該当しない」としたため、妻への青色専従者給与は認められませんでした。



◆「本業を妨げてはいない」という客観的証拠



以上のようなことを考慮すれば、青色事業専従者がダブルワークをする場合、他の仕事が「本業に専ら従事することを妨げてはいない」という客観的証拠を残しておくべきでしょう。

具体的にはタイムカードや業務日報などで業務時間や業務内容を明確にしておくことです。

さらには、本業と他の仕事の業務時間や報酬のバランスなども不自然にならないように気を付ける必要があります。


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2024年05月07日

パワハラ防止措置 義務化されて2年

皆様こんにちは。
北野税理士事務所の北野です。

つい最近話題になったTVドラマ「不適切にもほどがある!」にも登場していたハラスメント問題。
パワハラ防止措置が義務化されて2年が経ちました。いまいちど、内容について見直していきましょう。

パワハラ防止措置 義務化されて2年



◆ハラスメント防止と法律


「ハラスメントは良くないよね」という意識は、今の日本社会におおむね根付いているように思います。
振り返ってみれば、従業員を雇用する企業にハラスメント防止措置を義務づける法律は以下のように拡充されてきました。


・1999年4月 男女雇用均等法で女性労働者に対するセクハラ防止のための配慮義務
・2007年4月 「男女労働者に対するセクハラ防止の措置義務」に改正される
・2017年1月 「マタニティハラスメント(マタハラ)防止の措置義務」が追加される
・2020年6月 労働施策総合推進法で大企業にパワハラ防止のための措置義務
・2022年4月 中小企業にパワハラ防止のための措置義務


◆ドラマ「不適切にもほどがある!」にも


つい最近話題になったTVドラマ「不適切にもほどがある!」には、ハラスメント問題も登場していました。
このドラマの起点である1980年代には、そもそも「パワハラ」という概念はありませんでした。
そんな時代から現代にタイムスリップした主人公たちの引き起こすドタバタ社会派コメディーに多くの人が引き付けられました。
「ハラスメント=良くないこと」という大まかな合意がベースにありつつも、ハラスメントをめぐる問題を具体的にどうとらえるべきか、人々の意識レベルではまだすっきりとはしていないことを、このドラマは描き出したように思います。

さて、前述のように、個人・法人を問わず従業員を雇用するすべての企業に、具体的なパワハラ防止措置が義務付けられて、この4月で2年が経過しました。
あらためて、職場のハラスメント防止措置が掛け声だけでなく実効性のあるものになっているかどうか、点検する必要があります。

◆ハラスメントは人権侵害


2020年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、「過去3年間でパワーハラスメントを受けたことがある」と回答した人は、実に全体の31.4%に上りました。
これは、「ハラスメントが起きない企業はない」と考えるべき数字であるような気がします。

ハラスメントは人権侵害であり、本来許されることではありません。
被害者は、精神的、肉体的に理不尽な苦痛を被ることで、心身に不調をきたすことさえあります。
さらには、ハラスメントを見聞きした周囲の人々にも悪影響を与えます。
労働意欲やモラルが低下するなど、職場環境を悪化させます。
パーソル総合研究所の「職場のハラスメントについての定量調査」(2022年)によれば、2021年には全国で86.5万人がハラスメントを理由として離職しています。人手不足のおり、「ハラスメントが原因で離職」というのは、企業にとっても大きな損失です。

◆ハラスメント防止措置


事業主に義務付けられているハラスメント防止措置は、以下のとおりです。


① 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③ 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
④ 併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)
※妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、その原因や背景となる要因を
 解消するための措置も含まれる


事業主は、これらの措置を必ず講じなければなりません。※リンク先を参照して、その詳細をご確認ください。

これらの措置は、決めて周知してそれで終わりというものではありません。
「ハラスメント防止宣言」を出しても、実際にハラスメントが見過ごされていれば、その宣言は効力を発揮していません。
相談窓口を作っても、その人選に問題があったり必要な教育が行われていなかったりすれば、窓口としてふさわしい役割を担うことはできません。
これらの防止措置に実効性を持たせるには、点検・啓発・教育などを継続しておこなう必要があります。


【リンク】

厚生労働省 パンフレット「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕」p.19-30


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Posted by 北野純一税理士事務所 at 11:12Comments(0)経営

2024年04月11日

5棟10室基準」とは


「5棟10室基準」は、不動産所得の確定申告でよく耳にする言葉です。賃貸物件が建物の場合、その不動産事業が「事業的規模であるかどうか」を形式的に判定する基準として使われています。
一戸建てなら5棟、またはアパート・マンションなら10室。この基準以上の貸付であるなら、その不動産賃貸業は「事業的規模」であるいうわけです。なお、一戸建てとアパートの両方ある場合、一戸建て1棟をアパート2室として、合計10室あれば事業的規模と考えます。事業に至らない場合は「事業以外の業務」といいます。
事業的規模になると、資産損失、貸倒損失、専従者給与の必要経費算入、青色申告控除などが認められるので、事業的規模か業務的規模かの判定は重要です。

所得税基本通達26-9
さて、この「5棟10室基準」の根拠は、所得税基本通達26-9です。


建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定
26-9 建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。
(1)貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
(2)独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること


「原則はその貸付けが社会通念上事業といえる程度の規模かどうか(実質基準)で判定すべきだが、事実として5棟または10室以上(形式基準)の貸付けであれば事業的規模として扱う」という内容であり、形式基準が先ではないことが分かります。
この文章の作りからは、「形式基準を満たしていれば、事業的規模である」といえますが、「形式基準を満たしていないから、事業的規模にはならない」とまではいえません。
実質基準である「社会通念上事業と称するに至る程度の規模」の内容が分かりにくいことに加え、形式基準にも「おおむね」が付いています。納税者と税務当局との見解が違うことになっても、そう不思議ではないように思います。

国税不服審判所の裁決事例
実際、納税者と税務当局との間で事業的規模かどうかの争いになり、国税不服審判所で裁決が出た事例をみてみましょう。実質的にどのように判断されたかを確認することができます。
このケースの賃貸物件は、形式基準未満(3階建て1棟)であり、年間賃貸料収入は約950万円でした。


平19.12.4裁決(裁決事例集No.74 37頁)
〇事業とは、自己の計算と危険において営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動のことである。
〇不動産貸付けが不動産所得を生ずべき事業に該当するか否かは、①営利性・有償性の有無、②継続性・反復性の有無、③自己の危険と計算における事業遂行性の有無、④取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、⑤人的・物的設備の有無、⑥取引の目的、⑦事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される。


審判所では上記の諸点について検討を行い、①②⑤については事業性を認めたものの、③④については希薄であるとし、①~⑦を総合的に勘案した結果、「社会通念上事業と称するに至る程度のものとは認められない」と判断しました。下記のリンク先を参照すると詳しくみることができます。

形式基準の今後
裁決文のなかには「事業であるか否かの基準は必ずしも明確ではなく、その事業概念は、最終的には社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである」と書かれています。納税者が判断するのが難しいのも当然であり、ある程度は形式基準に頼らざるを得ないのが実態でしょう。
なお、税務大学校の研究活動では、所得税基本通達26-9について、昭和45年7月の制定時から見直しが行われていないこと、その基準の根拠も明確ではないこと、現時点においては課税上問題と考えられるケースがあることなどから、この通達を再考する必要性に言及する論考が紹介されています。

LINK
国税不服審判所 平19.12.4裁決 裁決事例集No.74 37頁

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Posted by 北野純一税理士事務所 at 11:38Comments(0)経済

2024年03月21日

税務署長の処分に納得できない! そんなときは…


再調査の請求・審査請求・訴訟
税務調査で追徴と言われたけど、どうしても納得できない。そんなときは、その処分の取消しや変更を求める「不服申立て」を行うことができます。不服申立ては行政上の救済制度であり、税務署長に対して行う「再調査の請求」と、国税不服審判所長に対する「審査請求」があります。
また、司法上の救済制度として、裁判所に対して訴訟を提起し処分の是正を求めることもできます。ただし、税務行政では「不服申立前置主義」が取られているため、国税不服審判所長に対する審査請求の裁決を経たあとで、訴訟を起こすことになります。

1.再調査の請求
税務署長が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長に対して再調査の請求を行うことができます。
税務署長は、その処分が正しかったかどうか、改めて見直しを行い、その結果を「再調査決定書」により納税者に通知します。この再調査の請求に係る決定により、納税者に不利益となるような変更がされることはありません。
なお、納税者の選択により、直接国税不服審判所長に対して審査請求を行うこともできます。

◆令和4年度の再調査の請求
再調査の請求の発生件数は1,533件で、前年度より37.0%増加しました。また、処理件数は1,371件でした。そのうち、何らかの形で納税者の主張が受け入れられた件数(認容件数)は63件(4.6%)でした。なお、再調査の請求については標準審理期間を3か月と定めており、3か月以内に処理された件数の割合は99.5%でした。

2.審査請求
税務署長が行った更正などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、国税不服審判所長に対して審査請求を行うことができます。また、再調査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定を経た後の処分になお不服があるときは、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内に審査請求を行うことができます。
国税不服審判所長は、税務署長の処分が正しかったかどうかを調査・審理し、その結果を「裁決書」により納税者と税務署長に通知します。裁決は、税務署長が行った処分よりも納税者に不利益となるような変更がされることはありません。

◆令和4年度の審査請求
審査請求の件数は3,034件で、前年度より22.2%増加しました。また、処理件数は3,159件でした。処理件数のうち、納税者の主張が何らかの形で受け入れられた件数(認容件数)は225件(7.1%)でした。なお、審査請求については標準審理期間を1年と定めており、1年以内の処理件数割合は95.4%でした。

3.訴訟
国税不服審判所長の裁決を受けた後、なお処分に不服があるときは、裁決の通知を受けた日の翌日から6か月以内に裁判所に訴訟を起こすことができます。

◆令和4年度の訴訟
訴訟の発生件数は173件で、前年度より8.5%減少しました。訴訟の終結件数は186件でした。このうち、何らかの形で納税者側が勝訴した件数は10件(5.4%)でした。

参考資料:
国税庁 税務署長の処分に不服があるとき

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Posted by 北野純一税理士事務所 at 14:24Comments(0)税務

2024年02月29日

政治資金と税金について

こんにちは。北野税理士事務所の北野です。
今回は、政治資金と税金についてお伝えします。



政界を大きく揺るがしている自民党の政治資金パーティーをめぐる事件。国会議員が派閥パーティー券の販売ノルマを超えて集めた分を、派閥が議員にキックバックし、派閥側も議員側も政治資金収支報告書に記載していなかった問題です。東京地検特捜部の捜査では、自民党の安倍派、二階派、岸田派が、おととしまでの5年間で合わせて9億7000万円余りのパーティー収入を政治資金収支報告書に記載していなかったことが明らかになっています。
会社でも個人でも何らかの利益を得たら、普通は税金がかかります。「記載しなかったお金」を手に入れた団体や個人に、税金はかからないのでしょうか。
この事件に登場するのは、政治団体と議員個人です。それぞれごとに政治資金と税金との関係をみる必要があります。

1.政治団体と税金
政治団体のうち、法人格を取得した政党と政党の指定する政治資金団体だけが「法人」です。これら以外の政治団体は法人格を持っていないため、「人格なき社団」に該当します。政策研究団体(いわゆる派閥)、資金管理団体(議員が代表となり、その政治資金を取り扱う団体)、国会議員関係政治団体などが「人格なき社団」として扱われます。

◆寄付収入に対する課税
法人税法では、人格なき社団について、収益事業から生じた所得以外の所得については法人税を課さないこととされています。したがって、政治団体が受けた寄附収入について法人税は課税されません。法人格を有する政党等も同様です。
相続税法では、公益を目的とする事業を行う者が受けた贈与財産について、公益を目的とした事業に供することが確実なものについては、贈与税を非課税とする措置がとられています。政治団体が受けた政治活動に関する寄付は、一般的にはこれに該当するという扱いで非課税になっています。
法人格を有する政党等についても、法人は贈与税の納税義務者となっていないため、贈与税は課税されません。

◆事業収入に対する課税
法人格の有無にかかわらず、収益事業による所得があれば法人税が課税されます。例えば、政治団体が、広く社会に向けて対価を得て機関紙等を発行するなどの出版事業を行なっている場合は、法人税も消費税もかかります。

2.政治家個人と税金
政治家個人が政治資金を受けとった場合の税金はどうでしょうか。実は、毎年1月に国税庁が出す「確定申告の手引き―政治資金に係る『雑所得』の計算等の概要-」という文書(以下、「概要」)に、その説明が載っています。令和6年1月の「概要」には、政治資金に係る雑所得の計算について、以下のように書かれています。


政党から受けた政治活動費や、個人、後援団体などの政治団体から受けた政治活動のための物品等による寄附などは「雑所得」の収入金額になりますので、所得金額の計算をする必要があります。 令和5年分の「政治資金に係る『雑所得』」の金額は、年間の「政治資金収入」から「政治活動のために支出した費用」を控除した差額であり、課税対象となります。

式で書けば次の通りです。


【政治資金に係る雑所得(課税対象)= 政治資金収入 - 政治活動のために支出した費用】

つまり、政治資金についても事業所得の計算方法と同じように、収入から支出を差し引いて残った分があれば、それは雑所得であり課税対象になります。

3.政治資金収支報告書の訂正
今年1月から2月にかけて、政治資金収支内訳書の訂正が相次いで行われました。2月8日のNHK WEB「自民 収支報告書訂正の72人 派閥からの寄付約70%が『繰越額』」によれば、2月8日正午までに72人の国会議員がホームページ上で訂正後の収支報告書(おととしまでの3年間分)を公表しています。NHKはその内容を以下のように報道しています。


・派閥側の訂正で新たに判明した議員側への寄付の総額3億7749万円
・議員側の訂正で追加された支出の総額は28%にあたる1億592万円


政治資金収支報告書は、政治団体が作るものです。それを訂正するということは、「記載しなかったお金は政治団体が受け取った」ということを意味しますが、それを鵜呑みにしてもいいのでしょうか。「政治資金収支報告書に記載しなくてもよい」と言われていたお金を、わざわざ政治団体(=収支報告書への記載が必要)に入れるでしょうか。そちらの方が不自然な感じがするのですが…。
もし、政治家個人に渡っていたとしたら、前述のとおり、それは政治家個人の雑所得のもとになる収入です。同額以上の支出がなければ、おそらく納税が必要になるはずです。それをはっきりさせるには、派閥・資金管理団体・政治家個人の口座の動きを追うなどして、お金の流れを解明する必要があります。もちろん、国会議員自身が自主的に「雑所得の申告を漏らしていました」ということで、修正申告し納税すればたいしたものです。

◆1966年 政界の「黒い霧事件」
同事件は、国会議員に対する税務調査まで発展しました。申告漏れなどにより修正申告、更正決定した国会議員は「現職議員が181名、前議員が22名、合計203名で、金額はトータル2億1800万円。当時の衆参両院の定数の3割近くに申告漏れがある計算だった」(東京新聞WEB 2024年2月20日)とのことです。
はたして、今回の事件ではどこまで追求が行われるでしょうか。

参考資料:
「令和5年分の所得税及び復興特別所得税の確定申告について ―政治資金に係る「雑所得」の計算等の概要―」

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Posted by 北野純一税理士事務所 at 14:42Comments(0)その他

2024年02月13日

安心してください。電子帳簿保存法は猶予措置があります


北野税理士事務所の北野です。

対応完了は3割にとどまる
昨年12月の帝国データバンクのアンケート結果によれば、電子帳簿保存法への対応が完了した企業は3割弱(!)とのこと。それも企業規模が小さいほど対応に遅れがみられるなど、まだまだ対応ができていない事業者が多いのです。

データの保存方法が面倒
電子帳簿保存法への対応を困難にしている理由の一つに、「電子取引データの保存方法」があります。同法によれば、保存したデータについて、①改ざん防止の措置をとる、②「日付・金額・取引先」で検索できるようにする必要があります。

①改ざん防止の措置をとる
データにタイムスタンプを付与する、訂正・削除の履歴が残るシステム等を利用して授受・保存をするなどの方法があります。また、専用のシステム等の費⽤をかけずに「改ざん防止のための事務処理規程を定めて守る」という方法もあります。

②「日付・金額・取引先」で検索できる
こちらも専⽤のシステム等の導入で対応する方法があります。それ以外にも、表計算ソフト等で索引簿を作成する方法や、データのファイル名に「日付・金額・取引先」を付けることで、検索機能が利用できるようにする方法があります。

電子帳簿保存法に対応したシステム等を導入すれば、一定の費用がかかりますが、手間はかかりません。費用をかけずに対応しようとすれば、手間をかけるしかありません。「どっちにしても困る!」と思っている間に1月1日が来てしまった、というのが対応できていない事業者の本音でしょう。

改正により、厳しい要件が大幅に緩和
さて、令和5年度税制改正では、令和6年1月からの電子取引データ保存についても改正が行われています。ここまで述べたような状況を予測したうえでの改正であり、①検索機能のすべてを不要とする措置の対象者の見直し、②新たな猶予措置の整備がされています。

①検索機能のすべてを不要とする措置の対象者の見直し

イ.検索機能が不要とされる対象者の範囲が、基準期間(2課税年度前)の売上高が「1,000万円以下」の保存義務者から「5,000万円以下」の保存義務者に拡大されました。


ロ.対象者に「電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている保存義務者」が追加されました。


つまり、基準期間の売上高が5000万円以下なら、データの検索機能がなくてもかまいません。また、電子取引データをプリントアウトした書面を、整然とした状態で提示・提出することができる場合も同様です。

②新たな猶予措置の整備(改ざん防止も検索機能も不要)
次のイ・ロの要件をいずれも満たしている場合には、データの改ざん防⽌や検索機能などは不要となり、電子取引データを単に保存しておくだけでよいとされました。


イ.保存時に満たすべき要件に従って電子取引データを保存することができなかったことについて、所轄税務署⻑が相当の理由があると認める場合(事前申請等は不要)


ロ.税務調査等の際に、電子取引データの「ダウンロードの求め」及びその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしている場合

「相当の理由」とは
ところで、②のイにある「相当の理由」とはなんでしょうか。

国税庁は「電子帳簿保存法一問一答(令和5年6月)」問61の回答として、次のように書いています。


令和5年度の税制改正において創設された新たな猶予措置の「相当の理由」とは、例えば、 その電磁的記録そのものの保存は可能であるものの、保存時に満たすべき要件に従って保存するためのシステム等や社内のワークフローの整備が間に合わない等といった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合については、この猶予措置における「相当の理由」があると認められ、保存時に満たすべき要件に従って保存できる環境が整うまでは、そうした保存時に満たすべき要件が不要となります。


したがって、経済的な余裕がなく電帳法対応ソフトを導入できていないとか、人手不足で電帳法対応にあたる従業員が確保できないなども「相当の理由」にあたると考えられています。

電子帳簿保存法への対応ができていない事業者のみなさん。とりあえず、電子取引データの保存だけはしておきましょう。改ざん防止や検索機能については、それができるよう目指しつつ…。

参考資料:
国税庁「電子帳簿保存法の内容が改正されました(令和5年4月)」
国税庁「電子帳簿保存法一問一答(令和5年6月)」


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Posted by 北野純一税理士事務所 at 13:46Comments(0)電子帳簿保存法

2024年01月25日

電子取引データを紙に印刷して保存するのは違反…じゃありません




電子帳簿保存法関連のテレビCMをよく視ます。
とりわけインパクトの強いR社のCMでは、こんなセリフが展開されます。


「おっと〇〇!?
取引先から電子発行された請求書を印刷!? ファイルに保存したぞ!?
イエローカード!
電子発行された請求書を紙で保存することは電子帳簿保存法に違反しています!」

さて、この表現を言葉通りに受け取っていいのでしょうか。視聴者がミスリードするのではないかと、筆者はずっと引っ掛かりを感じています。

1.「紙で保存してはならない」という条文はない
結論から言えば、同法にそのような趣旨の条文はありません。電子データの保存について定めているのは第7条です。


電子取引(※)の取引情報に係る電磁的記録の保存
第七条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

※「電子取引」とは、取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項)の授受を電磁的方式により行う取引をいい、EDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含む)、インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引等です。

2.重要なのは電子取引データの保存
第7条では「電子取引を行った場合は、そのデータ(電磁的記録)を保存しなければならない」と決めています。この場合、何が違反になるのでしょうか。それは「電子取引データを保存しない」ことです。「紙に印刷して保存する」ことは違反ではありません。
電子帳簿保存法では「電子取引のデータを保存すること」が重要なのであり、紙での保存が良いとかダメとか言っているわけではありません。にもかかわらず、「紙で保存することは違反です」と表現するのはおかしな話であり、筆者がミスリードを心配する理由もそこにあります。

国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」では、令和6年からの電子取引のデータ保存について以下のような記述をしています。「データを保存せよ」が主眼であり、紙の保存がダメというものではないことがわかります。


個人事業者・法人の皆さまへ

請求書・領収書・契約書・見積書などの関する電子データを送付受領した場合には、その電子データを一定の要件を満たした形で保存することが必要です。 令和5年12月31までに行う電子取引については、保存すべき電子データをプリントアウトして保存し、税務調査の際に」提示・提出できるようにしていれば差し支えありません(事前申請等は不要)が、令和6年からは保存要件に従って電子データの保存が行えるよう、必要な準備をお願いします。

参考:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」電子取引関係

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Posted by 北野純一税理士事務所 at 15:14Comments(0)電子帳簿保存法

2024年01月18日

『相続税の申告は、10ヶ月以内!』研修会を開催しました

北野純一税理士事務所の北野です。




1月16日(火)に国分寺にある某介護施設で施設の利用の親族様向けに相続税の申告についての研修会を開催しました。


相続税の具体的な解説や申告、納付期限等をイラストを入れつつわかりやすく説明いたしました。当事務所の相続相談会を担当している坂田税理士にも同席してもらい、専門性が高い研修になりました。


参加者の皆様からは「相続についてほとんど知らない者にとっては、分かりやすかったです。」「かみ砕いてのお話がわかりやすかったです」とご好評いただきました。

セミナーの内容
1.相続税の申告期限はいつまでか

2.相続税がかかるかどうかを調べる

3.守らないといけない期限

4. 相続人の確定・相続財産の確定をする

5.相続税の計算

6.質疑応答



主催:北野税理士事務所 税理士 北野純一

開催日:2024年1月16日(水)

講師:北野純一税理士事務所

代表 税理士 北野 純一

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Posted by 北野純一税理士事務所 at 11:44Comments(0)セミナー

2024年01月11日

災害と所得税

北野純一税理士事務所の北野です。

この度の令和6年1月1日に発生しました「令和6年能登半島地震」により被害に遭われた皆様には心よりお見舞いを申し上げます。
皆様の安全と被災地の一日も早い復興そして被災された皆様の生活が1日も早く平穏に復することをお祈り申し上げます。


今回は、災害に遭ってしまった時に所得税を軽減できる方法をお伝えしたいと思います。


災害と所得税


地震、火災、風水害などの災害によって、住宅や家財などに損害を受けたときは、確定申告で

(1)「所得税法」による雑損控除の方法
(2)「災害減免法」による所得税の軽減免除による方法


のどちらか有利な方法を選ぶことにより、所得税の全部又は一部を軽減することができます。



1.雑損控除

災害によって、住宅や家財を含む生活に通常必要な資産(※1)について損害を受けた場合には、雑損控除を受けて課税所得を減額することができます。

その年の所得金額から控除しきれない金額がある場合には、翌年以後3年間(※2)に繰り越して、各年分の所得金額から控除することができます。


雑損控除の金額は、以下の①と②のうちいずれか多い方の金額です。







(※1)

棚卸資産や事業用の固定資産、山林、生活に通常必要でない資産は、雑損控除の対象にはなりません。なお、生活に通常必要でない資産とは、別荘や競走馬、1個又は1組の価額が30万円を超える貴金属、書画、骨とうなどです。対象となる資産は、納税者自身、または納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族(その年の総所得金額等が48万円以下の人)が所有する資産です。

(※2)

特定非常災害として指定された災害により、住宅や家財などについて生じた損失について、その年分の所得金額から控除しきれない金額がある場合には、翌年以後5年間になります。

(※3)

「損害金額」とは、損害を受けた時の直前におけるその資産の時価を基にして計算した損害の額です。その資産が減価償却資産である場合には、取得価額から非業務用資産として計算した減価償却費累積額相当額を控除した金額を基礎として損害金額を計算することもできます。

(※4)

「災害関連支出の金額」とは、災害により滅失した住宅、家財などを取壊しまたは除去するために支出した金額です。

(※5)

「保険金等の額」とは、災害などに関して受け取った保険金や損害賠償金などの金額です。保険金等の額は、まず、損害金額から差し引き、保険金等の額が損害金額を超える場合には、災害関連支出の金額から差し引きます。


2.災害減免法



災害によって受けた住宅や家財の損害金額(保険金などにより補てんされる金額を除く)がその時価の2分の1以上で、かつ、災害にあった年の所得金額の合計額が1,000万円以下のときにおいて、その災害による損失額について雑損控除の適用を受けない場合は、災害減免法によりその年の所得税が次のように軽減または免除されます。

なお、減免を受けた年の翌年分以降は、減免は受けられません。

災害と所得税②



参考:国税庁「災害等にあったとき」


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Posted by 北野純一税理士事務所 at 15:08Comments(0)確定申告

2023年12月26日

ふるさと納税 利用者過去最高に

北野税理士事務所の北野です。

ふるさと納税


いよいよ年の瀬が迫りました。この時期、駆け込みでふるさと納税をした人も多いはず。総務省によれば、2022年度のふるさと納税寄附額は約9,654億円、納税寄附件数は約5,184万件、利用者数も約891万人と過去最高を更新しています。今回は、ふるさと納税に焦点をあてます。



自治体に寄付をして減税を受ける

ふるさと納税は2008年から始まった制度です。居住地ではない自治体に一定額を寄付すると、その年の所得税と翌年の住民税の減税が受けられ、さらにその自治体から返礼品をもらうことができます。

つまり、「減税が受けられる寄付金」です。以前は確定申告が必要でしたが、2015年から「ワンストップ特例制度」が始まり、サラリーマンは寄付先の自治体に所定の申請書を出せば手続きが完了し、使い勝手がよくなりました。ワンストップを利用した場合、所得税の減税分も加えた金額が、住民税から減税されます。



2,000円の負担で、それ以上の返礼品

人気が出た一番の理由は、寄付金が一定額までならば、「実負担額2,000円(=寄付金マイナス減税額)で、それ以上の価値の返礼品がもらえる」ことでしょう。

ただし、そもそもは「今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた『ふるさと』に、自分の意思で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」という問題提起から始まった制度です。総務省は、ふるさと納税には「三つの大きな意義」があるとして、以下のように説明しています。



①納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度である。

②生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度である。

③自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進む。



いかがでしょうか。納税者の意図と政府が掲げる意義の間には、なかなかの隔たりがあることがわかります。



ふるさと納税の困った点

さて、人気のふるさと納税ですが、良いことづくめというわけではありません。過度な返礼品競争が問題になり、総務省が手綱を引き締めたのはご存じの通りです。特産品のある自治体にはたくさんのふるさと納税が集まる一方、そうでない自治体には集まらないばかりか税収が減ってしまうという問題点があります。

ここで、ワンストップ納税を利用したサラリーマンAさんに登場してもらいます。Aさんの住んでいる自治体はX、ふるさと納税をした自治体はYです。Xにはこれといった特産品がありません。Aさんは、ちょうど2,000円の負担で済むよう計算し、Yに50,000円のふるさと納税をしました。

総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度)」、読売新聞「ふるさと納税…結局誰が得をして、誰が損をしているのか」(2022.2.18)を参考に、50,000円がどう配分されるかを考えてみます。



Aさん…Xから48,000円の住民税減税を受け、実負担は2,000円。

自治体X…48,000円の税収減。

自治体Y…50,000円の寄付を受ける。返礼品の販売業者に13,900円(27.8%)、それ以外に諸費用(送付・広報・決済・事務)として9,500円(19.0%)を支出。実収益は26,600円(53.2%)。



(注)カッコ内のパーセンテージは、総務省の資料「ふるさと納税の募集に要した費用(全団体合計額)」による。ふるさと納税サイトへの支払いは諸費用に含まれる。



矛盾を抱える制度

自治体Xが大都市で、もともと財政が豊かならばまだしも、規模の小さな自治体で特産品がない場合は、X自身が受ける寄付金はそれほど多くありません。ふるさと納税を利用する住民が増えるほど税収減となり、結果として住民サービスの低下につながりかねません。単純計算で人口比7.4%の利用率なので、それなりの税収減となることもあり得ます。総務省の意義③に「自治体間の競争」とありますが、土台となる条件が自治体ごとに違っており、そもそも競争として成り立たないのではないでしょうか。良かれと思ってすることが、実は自分の首を絞めることにつながるのでは困ります。

一方で自治体Yにとっては寄付された金額の半分近くに減るとはいえ、財政難を支える確かな収入源となっており、非常に助かっているという声が出されています。ふるさと納税は、引き続き矛盾を抱えた制度であり、そもそもの趣旨や自治体財政への影響の検証も含め、さらなる制度変更が必要ではないでしょうか。



参考:総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和5年度)


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Posted by 北野純一税理士事務所 at 13:39Comments(0)寄付金